こんにちは!入社3年目、2024年9月から東日本営業チームの一員となりました 田中です。

2024年7月に訪問したスペインのワイナリー「Mendall(メンダール)」をご紹介します。

生産者訪問記、記念すべき第1弾は「エスコーダ」、そして第2弾には「ニン・オルティス」とカタルーニャ地方の素晴らしい偉大な兄貴たちが続きました。

彼らの人柄は朗らかで、お茶目な姿も垣間見えますが、ワインには心地良い緊張感が沁み入るようで、やはり一際異なるベテラン感が滲み出ています。

そしてもうひとり、「エスコーダ」とともにカタルーニャのナチュラルワインブームを語るうえで欠かせない生産者が、今回ご紹介する「メンダール」です。

▲オーナーのLaureano Serres(ラウレアーノ・セレス)氏(2017年撮影)

▲入口付近のタイル

タラゴーナから車で1時間ほど西へ走るとTerr Alta(テラ・アルタ)というワイン産地に辿り着きます。彼のセラーはEl Pinel de Brai(エル・ピネル・デ・ブライ)という小さな村の、鮮やかな水色の空に包まれ、レンガの屋根が可愛らしい住宅街の中にポツンとありました。

▲スペインのマークがEl Pinel de Brai(エル・ピネル・デ・ブライ村)

私は今回が初めての海外出張で、これまで生産者がどのような場所や環境でワイン造りをしているのかという具体的な想像が膨らみませんでした。今回のツアーの最初の生産者訪問のメンダールは、キュヴェ数も多いので、てっきり「セラーは広いのかな」と思っていたのですが、住宅街にある一軒家なので私の想像よりも遥かに小さなセラーでした。そのため余計に「え!こんな狭いスペースでワインが造れるの!?」と目を大きく見開いたことを鮮明に覚えています。

セラーのオーナーであるラウレアーノ氏と挨拶を交わしましたが、彼は「H2O Vegetal(エイチツーオー ベジタル)」という「エスコーダ」のジョアンと企画・運営をしている試飲会を翌日に控えておりその準備があるため、彼の娘のAlicia(アリシア)ちゃんが案内してくれました。

▲アリシアちゃん

アリシアちゃんは私(執筆当時24歳)よりも年齢が若く、醸造学校を卒業したばかり。

彼女の卒業論文のテーマは、自分のセラーの白ワインに関する「酸化と還元について」で、学校ではアリシアちゃんが初めてナチュラルワインについて研究したそう。

小さな頃から父であるラウレアーノ氏のお手伝いをしていたのだろうなと、畑のことや醸造のことは何を質問されてもハキハキと返答する姿がとても頼もしく見えました。

今回は時間の都合上、セラーでの試飲のみで畑の見学は出来ませんでしたが、20キュヴェ程試飲(タンク試飲含む)をさせていただきました。

▲畑(2017年8月撮影)

スペインでは近年、気候変動の影響で気温は高く雨が少ない乾燥した年が続いています。

特に2023年はメンダールに限らず、暑さと雨不足で苦労したカタルーニャ生産者も多くいました。

ここメンダールではその対策として、少しでも多くの水分が果実や枝に届くよう葉を減らしたり、ラウレアーノ氏が毎日トラクターで畑を耕したりしています。この毎日の作業のおかげで水不足でもちゃんと木が成長してくれるそう。ただ、15年ぶりにホースを設置し直すほどのよっぽどな乾燥のため、動物たちももちろん喉が渇いており、山から畑の方まで降りてきてホースを口で破って飲んでしまうらしい。人間にとっても、動物にとっても死活問題ですね…。常に畑を見張っておかないといけないシビアな状況です。

そのためなのか、意外にもセラーにいる時間は1年の中でも僅か1カ月くらいだけで、他の時間はほとんど畑にいるとのことでした。

「大変でしょう…」と言うと、アリシアちゃんは「苦しみではなく好きなコトだから!」とキラキラした目で私たちに言いました。乾燥してどこも苦労しているからこそ、一生懸命に畑を手入れすれば効果も見えるし、余計に愛着が湧く。「この子(木)はこっちに伸びるのが好きなのね」など一本一本の個性が分かるようになったらしく、アリシアちゃんの畑に対する愛情がひしひしと私たちの胸に伝わってきました。

▲セラー内の様子

最初にも書いたとおり、セラーはかなり狭く、近代的というより原始的といったほうがいいでしょうか。冷却装置がないため、タンクの周りには濡らした毛布を巻き付けて21~25℃を保っています。タンクがある小さな一室のドアはきっちりと閉まらないのか、温度コントロールが難しいのだそう。だけど、ワインにとっても、そんな厳しい環境だからこそ免疫が強くなると言いますか、メンダールのワインは立体的な旨みが爆弾のように溢れ出し、強いエネルギーを感じます。

アリシアちゃんは卒業論文で賞が取れそうと話していて、なんとその賞金は3000ユーロ(日本円にして50万弱)!「その賞金で冷却装置を購入したい」と語る彼女のワイン造りに対する強い情熱が、私たちの気をさらに引き締めました。

父でもあり、尊敬する生産者でもあるラウレアーノ氏と二人三脚でワイン造りを本格的に始めたアリシアちゃん。彼女がワイン造りに加わった直近のヴィンテージでは、周りからテクニカルになったと言われたことがあったそうです。

ですが、私たちはこれまでの想いを聞いてきて、テクニカルになったのではなく作業が“洗練”されて彼らが大切にしている畑のポテンシャルがよりダイレクトに見えやすくなったのだと話していました。

 ▲試飲の中盤には生ハムを用意してくれ、さらに気持ちと話は盛り上がりました。タンクや樽、アンフォラなど、色々と回りながらアリシアちゃんは説明をしてくれました。

「気候変動し続ける世の中で、正統派な造りでなくてもヴィンテージを表現したい」と彼女は伝えてくれました。ワインの知識がある方は、どうしてもヴィンテージに対して良し悪しという2択の選択や評価を付けてしまうと思います。ですが、その年齢の彼女から「それはワイン造りにおけるひとつの背景やストーリーである」という言葉が発せられることに、私は感銘を受けました。

「ナチュラルワインの楽しみ方ってそういうことだよな」と、いままでしっかりと意識できていなかった気持ちをアリシアちゃんから教えてもらったような気がします。

 

これからの彼女の活躍、そして今後のメンダールにより一層ワクワクしています。

▲ちなみにそんなアリシアちゃんですが、父ラウレアーノ氏から4年前にプレゼントしてもらった小樽で、自身のワインもリリースしています(日本未発売)。

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