こんにちは!ディオニーマガジン編集部です。

前回お送りした田中による生産者訪問記・フリサック編の前・中・後編の中編をお届けします。今回はフランセスクに畑を案内してもらうところからスタートです(前回の記事はこちら

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気候は基本的に地中海性気候なのですが、山が多く畑も標高の高いところが多いため高山気候の一面もあります。年間雨量は400mmと、無農薬にはうってつけの病気になりにくい条件だそうです。

フリサックの畑の土は、ほかのスペインの生産者に比べて、ひと際柔らかく、また湿気があります。ふわっふわっとした質感、しっとりと保湿されているのに手にべたつかない、非常に美しい土だなと感動したのをいまでも鮮明に覚えています。

山から流れてきた土が堆積し、石とライムストーン(石灰)・泥灰土・砂・粘土、あとは「リモ」と呼ばれる粒子のような細かい砂が混ざり合っています。この畑には主に「Sang de Corb(サング・デ・コルブ)」というキュヴェに使われるカリニェナやガルナッチャ・ペルーダ、ガルナッチャ・ティンタが植樹されています。

▲畑の写真

このワインのラベルデザインには、勇ましい男性の頬の傷から血が垂れているような様子が描かれていますが、内戦の空爆の被害を受けたこの村の人々への敬意を表しています。畑を案内してくれる中で、フランセスクは真剣な眼差しで私たちにこの街で起きた歴史や出来事を説明してくれました。第一印象はなんとも陽気なお兄ちゃんでしたが、この村やこの村の人々に対する愛情と謙虚な人情、とても素晴らしい方だなと実感しました。

畑には21種類の土壌のタイプがあり、主に粘土質・粘土石灰質、あとは「パナル」というのがテッラ・アルタの特徴です。パナルは他のエリアではなかなかない土壌で、リモと石灰が合わさったもので、訳すと「蜂の巣の形(六角形)」を意味します。粘土質が入っていないため、触っても手が汚れず、質感も柔らか、触るとひんやり冷たくて湿度もあります。

昔は海底だったとのことでキラキラした石(結晶化した石灰)も多く見られました。

石はかなり平らで、割ると火薬の匂いがより感じ取れます。「Les Alifares(レス・アリファレス)」や「Vernatxa(ベルナッチャ)」というキュヴェではこの土壌由来の香りで柔らかい還元香や石油香が特徴的です。

▲土と平らな石

少し移動し、Cota(コタ)という海抜402mの谷から畑全体を見ました。

「メンダールのいるエル・ピネル・デ・ブライ村はテッラ・アルタのカナリア諸島と呼ばれるくらいいつも暖かいよ」と、フランセスクは遠い場所を指さしながらここでも丁寧に説明をしてくれました。

フランセスクは農学部を卒業後、なんとワイン造りは独学で学んだとのことでした。

メンダールのラウレアーノは師匠のひとりでもあります。

▲コタからの景色
▲実際に使われているゴム製の虫よけ(赤色)

畑で驚いたのは、なんと日本製の虫よけが使われていたことでした。

これは一見単なるゴム製の紐ですが、蛾を繁殖させない効果があるそうです。というのも、蛾が交尾をすると卵をぶどうの実の中で産んで腐らせてしまうのですが、この虫よけにはメスの蛾のフェロモンが入っているためオスが飛んできてもメスがどこにいるか分からず交尾を防いでくれます。フランセスクが所謂ナイトクラブにおける男女を例にして説明してくれたときには、やっぱり陽気なお兄ちゃん感が出ていて、クスクスしました。

そして畑からセラーに移動しました。なんとセラーは自分たちで一から作ったハンドメイドだそうです。禍コロナ禍の5年程かけて完成したそうでクオリティーは驚くほど高いです。

実はお父様が、戦争の際に飛んでしまった石を今後何かを建てるときのために土に埋めて保管していたとのこと。彼らはこのあたりの土がバターのように柔らかいパナルという土であるということを知っていたので、ここなら掘れるという確信をもって自分たちで掘り始めたのがキッカケだそうです。もう、凄いという言葉でしか表せません(笑)

セラー内はとても清潔に保たれており、大きな窓からは明るい太陽の光が差しこみ、美しい畑を一望できます。試飲スペースは彼らが好きなワインボトルの空瓶がズラリと並んだお洒落な空間です。

▲セラーの外観

▲樽が眠る部屋

▲コンクリートタンクやプレス機など

▲試飲ルーム。調理も可能

そんな素敵なお部屋で10種類ほど試飲をさせていただきました。2023年はやはり暑い年で、2022年よりも早めに収穫を始めたとのこと。特にレ・アリファレスは酸は綺麗に表現されており、柑橘のジューシーさがありつつ、さらにもっと厚みがあります。お料理は、青みのお魚だけではなくカジキマグロや脂ののったお刺身など、日本食にも是非合わせていただきたいですね!

▲画像はヴィンテージ2022

醸造でのこだわりでは、よく会話のなかに「還元」というワードが出ていました。

畑でも土壌由来からくる柔らかい還元香や石油香の話はありましたが、それとは別に、赤ワインで使用するカリニェナには土壌の窒素を多く吸い上げる特性があり、発酵すると還元しやすい環境になってしまうのだそうです。この対策として「踏む」という点にこだわりがありました。主に踏むという作業は果実を砕いてジュースを出すことが目的になりますが、彼らは空気を入れてあげるという目的でこの作業を行っています。この作業が窒素を飛ばし、還元しにくくするそうです。(編集部註:足で踏むことで果汁が酸素と触れる時間が増え、窒素化合物の酸化が進む)このような地道で丁寧な作業があるからこそ、土壌ならではの特徴や、ブドウそのままの個性がダイレクトに表現されやすくなるのでしょうね。

▲フランセスク(左)とジェンマちゃん(右)の愛おしい2ショット

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さて、次回はフリサック編最終回。このジェンマちゃんのワインについてお伝えします!

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