こんにちは!ディオニーマガジン編集部です。
東日本営業チーム大久保の生産者レポート第2弾、2024年7月にスペインのワイナリー「Família Nin Ortiz(ファミリア・ニン・オルティス)」をご紹介します。
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スペインを代表する銘醸地「プリオラート」で、自然を尊重し、そのミクロクリマ(局地的な気候)を1本のワインに表現することを目標にしている生産者、ニン・オルティスを訪問した。
当主のひとりエステル・ニンはブドウ栽培家の家に生まれ、幼い時から家族とともに剪定や収穫など、様々な仕事に慣れ親しんできた。バルセロナで生物学を学び、タラゴナで醸造学を修める。その後醸造の経験を積み、幾つもの醸造コンサルの仕事を経て2004年に3haの畑からワインを作り始めた。しかし、当時の畑は過疎化の影響と高齢化の進行により急斜面での作業が不可能となり、除草剤や殺虫剤の使用を余儀なくされ、やせ細った魂のない古い株仕立ての畑が残っている状態だった。その光景を見たエステルは初日からビオディナミ農法を導入。その後5haの畑を購入し、今ではすべての畑でビオディナミ農法を実践している。
今回訪問した23生産者の中で、ニン・オルティスの畑とセラーの場所が圧倒的に秘境だった。バルセロナ市街地から車で2時間ほど進んだ先のレウスという市街地から、さらに40分ほどくねくね道をただひたすらに進むと、断崖絶壁にぽつんとセラーが建っていた。それを見て最初に思ったのは「お金持ちの別荘」感。しかも完全プライベートの。
そのセラーから畑を見下ろせるようになっており、何かあったらすぐ畑の管理ができるようになっている。
プリオラートの土壌には「リコレイラ」という特有のスレート土壌がある。鉄分を多く含み、水はけがよく太陽光を反射し、ブドウの根が深く伸びることを促す。それにより土中のミネラル分を多く吸収してブドウに凝縮感と豊かな風味が生まれやすい。地下のセラーでは、畑の地層が見られるようになっており、地中深くまでブドウの根が伸びているのがわかる。見える根は6mで、最長で20mの根もあるそう。
彼らのワインの中には、ティナハ(素焼きの甕)で発酵させるキュヴェがある。ティナハは温度が上がりにくいため発酵が安定しやすく「リコレイラ」を表現しやすい。ディテールまでこだわり、世界でも珍しいこのスレート土壌を表現することを意識している。
気になったのはプレス機のサイズ。500L分をプレスできるサイズしかなく、小さくないのかと聞いたら、1日の収穫を7回に分けているので、問題はない。そして一気に収穫してプレスすると、その間に放置されたブドウにストレスがかかり雑味が出る。だからこのサイズで十分とのこと。
彼らがワイン造りでとても大事にしていることは、収穫時に毎年同じ収穫者を雇うこと。理由はとてもシンプルで、いいブドウのみを収穫するには高度な技術が必要であることと、新人に1から10まで教えている暇はないとのこと(笑)。毎年同じメンバーで収穫すれば、必然的にチームワークも生まれてくるだろうし、ワインにとっても素晴らしい相乗効果が期待できそう。
では、いいブドウとは何かカルラスに聞いたところ、「熟しているけど、まだフレッシュさが残っているもの」だそう。んー、判断が難しそう。。。
この話の最後にカルラスが真面目な顔で僕らに言ったのは、「熟練の収穫人でないといいワインが作れない。毎年同じ人を雇い、それなりにいいお給料も払っている。醸造と同じぐらい人材を大事にしないといけない」ということ。納得。
その後、食事をご馳走になった。
結構ボリューミーでかなり満腹になったが、カルラスが「若いんだからもっと食べないと!」と親切そうな目と気持ちのこもった口調で、強制おかわり。ただ豚ロース自体の味付けはとてもやさしく、その分キノコローストが旨味たっぷりでバランスが取れている。そして付け合わせのオリーブの酸味と相まって、気づけばあっという間に完食。こちらの料理にペアリングしたワインは、マス・デン・カサドール2022年(平均128年樹齢のガルナッチャ、カリニェナ、ガルナッチャ・ペルーダ97%、カリニェナ・ブランカ3%)。
シルキーなタンニンだが口の中での主張はしっかりとあり黒系果実主体で、味わっていくうちに完熟イチジクやドライチェリーなどの旨味の強いフルーツに変化していく。酸味の構成も素晴らしく、白品種が少量入っているのでフレッシュさを感じる立ち上がり。
この2022年ヴィンテージの収穫は朝4時からスタートしたそう。太陽が昇り、ブドウが目覚める前の酸が残った状態で収穫したかったとのこと。まだ日本未入荷なのでお楽しみに。
ここ最近は全く雨が降らないため、10年~15年間で生産量が5000本ほど減っているそう。マス・デン・カサドールは10年で半減している。
地球温暖化の影響について、今回の出張で訪れた他の生産者も、収量についてマイナスなことを語っていたが、彼らほど影響を受けている生産者はいなかった。10年前は合計3万5000本の生産だったが、昨年の2023年は7000本減の2万8000本の生産量。ちなみにこの10年でカリニェナ・ブランカを追加で植えたのにも関わらず、この数字である。
ここまで収量に影響が出る前はブドウに病気が発生しないよう、風通しを良くするため葉をとっていたが、現在はブドウが焼けてしまう恐れがあり、日陰を作るためわざと葉を残している。
基本的にカルラスが喋って、その隣でエステルがじっと話を聞き、カルラスの話に時々補足情報を追加するような構図で2時間ほど同じ時間を過ごした。
その中でエステルが急に口を開き、「スペインワインは世界的に人気か?」と質問してきた。それに対し僕らは、スペインワインよりフランスワインが求められることや、価格も年々シビアになってきていること(日本は為替の影響がある)など、日本のナチュラルワインの市場について率直に話した。それに対し、エステルも大きくうなずき、賛同の表情だった。
当社取り扱いの彼らのワインは、参考小売5,000~6,500円がメインの価格帯で、上位のクラスになると15,000~20,000円になる。上記のようにお伝えした通り、ニン・オルティスはワイン造りに、一瞬の油断も許さず、細部の細部までこだわり、とことんワインに向き合っている。この価格になるのも彼らの本気度が表れているのだと今回の訪問で感じることができた。
どのワインも素晴らしく、「飲む」というより、「噛む」という表現ができるぐらい液体にパワーが宿っていた。おいしいワインとは何かをこの出会いを通じて知ることができた。
国や価格、品種など様々な垣根を越えて、素晴らしい生産者たちの思いを、今後も皆様にお届けしていきたい。